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発達加速現象とは?発達加速現象の原因と推移、影響は?

発達加速現象

発達加速現象とは

発達加速現象とは、世代が新しくなるにつれて個体の身体的発達が速くなる現象です。

身長や体重などの増大だけでなく、初潮や精通の開始時期の低年齢化なども発達加速現象に含まれています。

発達加速現象は、欧州において、徴兵検査で若い世代ほど身体が大きくなるという検査結果が得られたのを機に注目されるようになりました。

その後の研究により、全ての国や地域で一様に見られるわけではなく、特に、都市化が進んでいる地域に顕著に見られる現象で、すでに都市化が進んだ地域では停止傾向にあることが明らかにされました。

成長加速現象と成熟前傾現象

発達加速現象は、量的側面と質的側面から成長加速現象と成熟前傾現象に分類されます。

成長加速現象身長、体重、胸囲など身体の量的成長が加速する現象
成熟前傾現象初潮や精通などの性的成熟、乳歯や永久歯の生え始める時期や生え揃う時期などが早くなる現象

年間加速現象と発達勾配現象

発達加速現象は、何と比較して発達が加速しているかという視点から、年間加速現象と発達勾配現象に分類されます。

年間加速現象前の世代と比較して発達が加速
発達勾配現象同年代における他の集団や文化と比較して発達が加速

発達加速現象の原因

発達加速現象を起こす原因としては、以下の説が主張されています。

栄養説栄養状態が改善されることにより発達が加速
雑種強勢説国際化が進んで異人種間の交配が進んだことにより発達が加速
環境説(気候説)居住する環境の影響で発達が加速(環境により加速しないこともある)
日照説日照時間や気候の変化によって発達が加速(環境により加速しないこともある)
都市化外傷説都市化に伴う性的刺激などの心理的刺激により発達が加速

現在は、栄養や環境など単一の要因ではなく、複数の原因が複雑に絡み合うことで起こるという考え方が主流です。

発達加速現象の推移

発達加速現象は、20世紀半ばから、欧米の先進国の都市部を中心として確認されるようになりました。

現在は、欧米の先進国では発達加速現象が停止傾向にある一方で、経済発展や都市化が急速に進む途上国において発達の著しい加速が確認されています。

日本における発達加速現象

日本における発達加速現象の推移を確認しておきましょう。

成長加速現象

日本では、1900年の17歳の平均身長は男子が157.8cm、女子が約147cmでした。

しかし、昭和に入ると男子が160cm、女子が150cmを超え、1985年にはそれぞれ170.2cmと157.6cmに達しました。

その後、身長の伸びが止まり、1995年は男子が170.8cm、女子が158.0cm、2015年は170.7cm、175.9cmと横ばい状態が続いています。

そのため、1980年代には身長に関する年間加速現象は停止したと考えられています。

年度男子女子
1955年163.4cm153.2cm
1965年166.8cm154.8cm
1975年168.8cm156.3cm
1985年170.2cm157.6cm
1995年170.8cm158.0cm
2005年170.8cm158.0cm
2015年170.7cm157.9cm

出典:学校保健統計調査1年齢別 平均身長の推移(明治33年度~平成29年度)~政府統計の総合窓口

成熟前傾現象

成熟前傾現象については、平均初潮開始年齢を確認しておきます。

1890年頃には14歳後半だった平均初潮開始年齢が、1977年には12歳6ヶ月になり、90年弱で約2年間も低年齢化しています。

1980年代には低年齢化が小休止し、1992年には12歳3.7ヶ月と再び低年齢化が見られましたが、その後は横ばい状態が継続しています。

そのため、1990年代には成熟前傾現象が停止したと考えられています。

平均初潮開始年齢の推移
年度年齢
1967年12歳10.4ヶ月
1977年12歳6.0ヶ月
1987年12歳5.9ヶ月
1992年12歳3.7ヶ月
1997年12歳2.0ヶ月
2002年12歳2.0ヶ月
2005年12歳2.2ヶ月
2008年12歳2.6ヶ月
2011年12歳2.3ヶ月

参考:発達加速現象の研究-第12回全国初潮調査結果-|大阪大学大学院人間科学研究科・比較発達心理学研究室

発達勾配現象

日本国内においても、発達加速現象の地域差(発達勾配現象)が確認されています。

以前は、都市部において高身長の人が多い傾向がありましたが、現在はそうした地域差は見られなくなりました。

一方で、地方における性成熟の低年齢化が注目されています。

大阪大学大学院の「第12回全国初潮調査結果」では、初潮開始年齢について、日本国内でも以下のような差が見られることが指摘されています。

  • 沖縄県、秋田県、青森県は、初潮開始年齢が低い傾向が見られる一方で、佐賀県や滋賀県は遅い傾向にある
  • 大阪府や東京都の大都市部では、昭和30年代には初潮開始年齢が低い傾向が見られたが、現在は停止している
  • 市部や郡部の差はほとんど見られない

このように、日本という限られた地域においても、成長加速現象と成熟前傾現象の推移に差があり、発達勾配現象も見られます。

発達加速現象の影響

発達加速現象により、前の世代よりも身体的・心理的発達が早い時期に起こることで、青年期の開始時期が低年齢化していると考えられています。

青年期とは、第二次性徴に伴う身体の急激な変化とともに、自我意識の高まりや内省的傾向などの心理的変化が著しくなる時期です。

言い換えると、子どもが身体の変化や性的欲求の高まりによって男らしさや女らしさを意識し、「自分がどんな人間で、何を為したいか。」に関心が向くのが青年期という時期です。

心と身体は、いずれか一方だけが発達すると不安定になりやすく、両者がバランスよく発達することが重要です。

しかし、発達加速現象によって内面が幼いうちに身体だけが発達すると、心と身体にアンバランスが生じてアイデンティティ(自己同一性)の確立が遅れたり、アイデンティティが拡散したりするリスクが高まります。

性的アイデンティティの危機に直面しても適切に対処できず、様々な心身症状が現れるおそれもあります。

青年期の開始時期が早まっても、心と身体の発達のバランスがとれないとアイデンティティを確立することは難しく、社会に適応して生きていくことも困難です。

また、日本を含む先進国においては、青年期が以前よりも延長される傾向にあります。

青年期の延長の主な原因は高学歴化だと考えられていますが、発達加速現象によって心と身体のアンバランス状態が長期化することも影響しているのではないかという指摘もあります。

MEMO
  • アイデンティティ:「自分とは何者か。」という自分の定義や、自分が社会の中で何を為してどのように生きるかという自覚や存在意識
  • アイデンティティの確立:「自分とは何者か、」、「自分が何を為す存在か。」などを模索し、自分なりの答えを見つけた状態

アイデンティティについては、「アイデンティティとは?意味と使い方を分かりやすく解説」で詳しく解説しています。

まとめ

発達加速現象とは
新しい世代ほど身体的発達が早まる現象
発達加速現象の原因
  • 栄養説、雑種強勢説、環境説、日照説、都市化外傷説など
  • 現在は、複数の要因が複雑に絡み合って生じると考えられている
発達加速現象の推移
  • 先進国は停止傾向
  • 途上国は発達加速現象が顕著
  • 日本国内でも発達加速現象の推移に差がある
発達加速現象の影響

青年期の低年齢化と延長によるアイデンティティ確立の遅れやアイデンティティ拡散

【参考】

  • 現代青少年の発達加速―発達加速現象の研究|沢田昭、前田嘉明著|創元社