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アージリスの未成熟・成熟理論とは?マネジメントへの活用は?

アージリスの未成熟・成熟理論

アージリスの未成熟・成熟理論とは

アージリスの未成熟・成熟理論とは、アメリカ合衆国の経営学者アージリス,C.が提唱した、人材の人間的成長に注目した動機づけ(モチベーション)理論です。

アージリスは、心理学者マズロー,A.が提唱した欲求5段階説の根底にある「人は自己実現に向けて絶えず成長する存在である」という考え方を職場環境に当てはめた研究を行いました。

そして、「人材は元から行動を起こす心理的エネルギーを持ち、仕事の中で自己実現を目指す「自己実現人」である。」と仮定し、人材のモチベーションを向上させるには自らの心理的エネルギーを自覚させ、成長すべき方向へ導くことが重要だと主張しました。

つまり、職場の人材のモチベーションを向上させる方法として、報酬、地位、待遇、福利厚生など外から与えられるものよりも、自己実現を目指す力を引き出させることが有効だと考えたのです。

MEMO
マズローの欲求5段階説:マズローが提唱した人の欲求を5段階の階層(生理的欲求、安全欲求、社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求)で説明する理論。

未成熟・成熟理論を含むモチベーション理論などに大きな影響を与え、現在もなお、重要な理論の一つとされる。

アージリスは、パーソナリティ分析によって、人材が採用当初の未成熟な状態から成熟した状態へ成長を遂げる過程でどのような人間的変化を起こすかを調べ、未成熟・成熟理論としてまとめました。

アージリスの未成熟・成熟理論における7つの人格的変化

アージリスの未成熟・成熟理論では、未成熟から成熟へと成長する過程において、人材の人格には7つの変化が生じると説明されます。

未成熟 成熟
受動的 能動的
依存 独立
単純な行動 多様な行動
浅い興味 深い興味
短期的な展望 長期的な展望
従属的な立場 対等・優越的な立場
自己認識の欠如 自己統制

受動的⇒能動的

受動的で未熟な状態から、成熟して能動的な状態へと変化していきます。

採用当初の人材は、知識も経験もない未成熟な状態で、管理職や先輩社員などから指示された仕事をこなす受動的な立場です。

しかし、経験を重ね、知識やノウハウを蓄積するにつれて、自分で考えて仕事に取り組み、管理職に意見したり、指示に異議を唱えて先輩社員と議論したりする能動性を身につけます。

依存⇒独立

他人に依存した未熟な状態から、成熟して自分で責任が取れる独立した状態へ変化していきます。

職場や仕事に慣れるまでは、管理職や先輩社員などの指導監督下に置かれ、指示や指導に従って仕事をこなし、仕事上の失敗に対する責任も自分で負うことができません。

つまり、他人に依存した状態です。

しかし、経験を積むにつれ、独立して仕事をこなし、仕事に対する責任も自分で負う独立した状態になっていきます。

単純な行動⇒多様な行動

単純で限定された未熟な行動しかとれなかったものが、成熟して多様かつ目的達成的な行動へと変化していきます。

仕事に慣れないうちは、簡単な仕事でも一つひとつこなすのが精一杯で、単純な行動しかできません。

しかし、知識を得て経験を積むにつれて、多様かつ目的達成的な行動がとれるように変化していきます。

例えば、徐々に難しい仕事や複数の仕事を与えられますし、仕事に対して裁量の範囲で自ら考えて行動するようになり、行動が多様化します。

浅い興味⇒深い興味

浅く弱い未熟な興味から、成熟して深く強い興味へ変化していきます。

採用当初は、業務内容を一通りこなせるようになるために、知識を広く浅く仕入れる必要があります。

しかし、知識を蓄積して経験を重ねるにつれて、業務に関してより深い興味を抱き、高度な知識やスキルを身につけようとするようになります。

短期的な展望⇒長期的な展望

短期的で無計画な未熟な視点から、成熟して過去や未来を含む長期的かつ計画的な視点へ変化していきます。

働き始めの頃は、目の前の仕事をやり遂げて成果を出すことに全力を注ぎます。

つまり、短期的な展望しか持てていない状態です。

しかし、経験を積むにつれて、未熟な短期的かつ無計画な視点から、過去や未来を含めた長期的かつ計画的な視点に変化していきます。

例えば、目の前の仕事の成功だけでなく、参加プロジェクト全体の成功、部課室の年度目標の達成、会社が将来的に進む方向性など、より長期的な展望を持てるようになります。

従属的な立場⇒対等・優越的な立場

他人に従属した未熟な状態から、成熟して自己確立した対等または優越的な立場へ変化していきます。

新入社員の多くは、管理職の指示に基づいて仕事をこなす従属的な立場に置かれますが、仕事の知識や経験を蓄積するにつれて、対等な立場(または優越した立場)になっていきます。

自己認識の欠如⇒自己統制

主観的な自己認識しかできない未熟な状態から、成熟して客観的な自己統制へと変化していきます。

新入社員のうちは、目の前の仕事をがむしゃらにこなします。

しかし、徐々に自分を意識し、仕事の中で自己実現することを目指して自分をコントロールしようとするようになります。

アージリスのマネジメント理論

アージリスは、未成熟な状態から成熟する過程における人材の人格的変化を踏まえ、マネジメントについての考えも示しています。

伝統的組織論に対する主張

アージリスは、伝統的組織論に基づく組織は、人材を全人的かつ職能的に教育する意識や機能が欠け、人材を指示に従うだけの未熟な状態に留めようとしているとして「人なき組織には、命がない。」と批判しました。

そして、当時の伝統的組織論が人の人格的変化に与える影響について、以下のとおり言及しました。

  • 仕事の専門化:人材の能力の一部しか活用されず、その人材が未成熟と捉えられる
  • 命令の系統:上位の管理者に従属的かつ受動的になることを強いられる
  • 指揮の統一:人材の自発的な目標設定を阻害する
  • 管理の範囲:末端の人材の自己統制の範囲を狭める

その上で、伝統的組織論が根付いた組織では、退職や目標設定の下方修正、無力感・無気力を抱きながらの表面的な順応、報酬を偏重する傾向などが見られ、成熟した人材の育成が困難になりやすいと説明しています。

また、何らかの方法で組織に所属し続ける場合、表面的に順応しながら非公式の集団を形成して依存すると考えました。

組織と個人の変革は車輪の両輪

アージリスは、人材が未熟な状態に留まることについて、人材の個人的要因よりも、人材を教育して潜在能力を活用する意識や機能がない組織に問題があると考えました。

組織の変革には、職場環境や教育研修制度の改善と、人材の人間関係力学を変化させることが重要であり、組織と人材の両方を変革させることで両者の調和が実現すると主張して、混合モデルを提唱しました。

本質的特性から離れる 本質的特性へ向かう
組織内の単独の部分が組織全体を統制(支配)する 全体は全ての部分の相互関係を通して形成、統制される
組織は、部分の任意の加算集合であると認識されている 組織は、部分が集まったパターンとして認識されている
部分に関連した目標の達成に努めている 全体に関連した目標の達成に努めている
一般従業員は、内部志向的中核活動影響を及ぼすことができない 一般従業員が、内部志向的中核活動に影響を及ぼすことができる
一般従業員は、外部志向的中核活動に影響を及ぼすことができない 一般従業員が、外部志向的中核活動に影響を及ぼすことができる
中核活動の性質が現在によって影響される 中核活動の性質は、過去・現在・未来から影響を受けて決定される

「本質的特性から離れる」組織は、伝統的組織理論に基づく管理方式に基づいて人材が管理される組織、「本質的特性へ向かう」組織は、伝統的組織理論に基づかない新しい管理方式が模索される組織です。

前者は、組織の一部による決定が上意下達され、個別の部署が加算的に集合したものが組織と認識され、従業員は、部署の内部目標など内部志向的な中核活動に関与できず、環境への順応という外部志向的中核活動に影響を及ぼすこともできません。

後者は、組織全体が相互に関わり合う有機的な結合が生じ、従業員が組織目標に参加することができるようになります。

まとめ

アージリスの未成熟・成熟理論とは

アージリスが提唱した、人材の人間的成長に着目した動機づけ理論

アージリスの未成熟・成熟理論における7つの人格的変化
  • 受動的→能動的
  • 依存→独立
  • 単純な行動→多様な行動
  • 浅い興味→深い興味
  • 短期的な展望→長期的な展望
  • 従属的な立場→対等・優越的な立場
  • 自己認識の欠如→自己統制
アージリスのマネジメント理論
  • 伝統的組織理論(仕事の専門化、命令の系統、指揮の統一、管理の範囲)の批判
  • 混合モデルの提唱

【参考】

  • ビジネス心理学入門|小泉修平著|三恵社