DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル第5版)を分かりやすく解説

DSM-5

DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル第5版)とは

DSMとは、アメリカ精神医学会が出版している、精神障害の診断のための共通言語と標準的な基準を示したものです。

正式名称は「Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders」で、日本では「精神障害の診断と統計マニュアル」と訳されますが、一般的には英語表記の頭文字を並べてDSMと呼ばれています。

DSMは、DSM-Ⅰの出版以降、発達障害などに関する新たな知見や研究結果を参考に改定が繰り返され、現在はDSM-5が最新となっています。

DSM-5とは

DSM-5とは、2013年に公開されたDSMの第5版です。

第4版であるDSM-Ⅳから20年ぶりに改訂され、発達障害に関する記述も大きく変更されています。

なお、DSM-Ⅰ~DSM-Ⅳはローマ数字で「Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ」と表記されていますが、DSM-5では改定を明確にするためアラビア数字の「5」が用いられています。

DSM-5の特徴(DSM-Ⅳからの変更点)

例えば、広汎性発達障害が自閉スペクトラム症(ASD)、学習障害(学力の特異的発達障害)は限局性学習症(SLD)に変更され、診断基準も変更されています。

以下、DSM-5の主な特徴を解説します。

DSM-5の特徴:ディメンション診断(多元的診断)の導入

DSM-5の特徴として、まず、DSM-Ⅳで採用されていた多軸診断システムが廃止されたことを挙げることができます。

多軸診断システムとは、第Ⅰ軸~第Ⅴ軸まで診断の軸を設定し、5つの異なる側面から網羅的かつ総合的に診断するシステムです。

5つの軸は、以下のとおりです。

  • 第Ⅰ軸:精神疾患
  • 第Ⅱ軸:知的障害(精神発達遅滞)と人格障害(パーソナリティ障害)
  • 第Ⅲ軸:身体疾患
  • 第Ⅳ軸:心理社会的問題(環境的な問題)
  • 第Ⅴ軸:機能の全体的な適応評価(GAF)

DSM-5では、多軸診断システムに代わってディメンション診断(多元的診断)が導入されています。

ディメンション診断(多元的診断)とは、各種疾患やパーソナリティ障害のスペクトラム(連続体)を想定し、発達障害などのレベル(重症度)を%表示(パーセント表示)するものです。

つまり、単純に診断名をつけるだけでなく、精神疾患の重複、病態の変化、重症度について、DSM-Ⅳよりも直接的な判断がなされます。

ただし、多軸診断システムの軸の区分が完全に廃止されたわけではありません。

多軸診断システムの5つの軸のうち、第Ⅰ軸(精神疾患)と第Ⅱ軸(知的障害、人格障害)はまとめられ、第Ⅲ軸(身体疾患)も各疾患の中に併せて記載されています。

また、第Ⅳ軸(心理社会的問題・環境的な問題)は、「ICD-10-CM Zコード」を使用しています。

第Ⅴ軸(機能の全体的な適応評価)も、「WHODAS2.0(世界保健機構障害評価尺度第2版)」が暫定的に採用されています。

DSM-5では、精神障害や精神疾患は、一般的なストレス反応や文化的に許容される反応とは異なる病的反応と定義されます。

また、正常か異常化の区別は、診断基準の適応だけでは判断できず、医師の臨床的・経験的な要素が重要だと考えられています。

MEMO
  • ICD-10(疾病及び関連保健問題の国際統計分類第10版):WHO(世界保健機関)が作成する、死因や疾病に関する統計と分類の第10版
  • ICD-10-CM:ICD-10に説明を加えたもの
  • WHODAS2.0:精神障害ではない全般的な機能不全を分類したICFから作成された、精神障害・精神疾患と社会経済的・職業的な気泡不全を区別することを目指した分類

DSM-5の特徴:自閉症スペクトラムの採用

DSM-Ⅳでは、先天的な脳の障害によって広範な領域に生じる発達上の障害を「広汎性発達障害(PDD)」という概念で表現していました。

しかし、DSM-5では広汎性発達障害が廃止され、自閉症スペクトラム(ASD)という診断名が採用されています。

自閉症スペクトラムというのは、各発達障害を「連続体(スペクトラム)」として捉える概念です。

自閉性スペクトラムに含まれる発達障害は、以下のとおりです。

  • 自閉性障害
  • アスペルガー障害
  • 小児崩壊性障害
  • 特定不能の広汎性発達障害、非定型自閉症

なお、DSM-Ⅳでは、上の4つの他にレット障害が広汎性発達障害に含まれていました。

しかし、レット障害はX染色体異常(MeCP2異常)で自閉症と関連がないことが明らかにされたため、DSM-5では除外されています。

DSM-5の特徴:精神障害と発達障害が神経発達障害にまとめられた

精神障害と発達障害は、DSM-Ⅳでは「通常、幼児期、小児期または青年期に初めて診断される障害(Disorders Usually First Diagnosed in Infancy, Childhood or Adolescence)」というカテゴリーにまとめられていました。

しかし、DSM-5では「神経発達障害(Neurodevelopmental Disorders)」にまとめられました

神経発達障害にまとめられた精神障害と発達障害は、以下のとおりです。

  • 知的能力障害群:知的障害、全般性発達遅延、特定できない知的障害
  • コミュニケーション障害群:言語障害、会話音声障害、吃音、小児期発症の流暢性障害、社会性コミュニケーション障害、特定できないコミュニケーション障害
  • 自閉症スペクトラム:自閉性障害、アスペルガー障害、小児崩壊性障害、特定不能の広汎性発達障害、非定型自閉症
  • 注意欠如・多動障害群:注意欠如・多動症、混合発現型、不注意優勢型、多動性・衝動性優勢型、他で特定される注意欠如・多動性障害、特定できない注意欠如・多動性障害
  • 限局性学習障害:読みの障害、書く表現の障害、算数の障害
  • 運動障害群:発達性協調運動障害、常同運動障害、チック障害、トゥレット障害、持続性(慢性)運動または音声チック障害、一時的なチック障害、他で特定されるチック障害、特定できないチック障害
  • その他の神経発達障害:他で特定される神経発達障害、特定できない神経発達障害

DSM-5とICD-10の診断名

DSM-5とICD-10では発達障害の診断名が異なります。

日本の発達障害者支援法ではICD-10に基づいて発達障害を定義しているため、DSM-5とICD-10の診断名の対照表を載せておきます。

DSM-5 ICD-10
神経発達症群
 知的能力障害群
  軽度
  中等度
  重度
  最重度
 全般的発達遅延
 特定不能の知的能力障害
F7 精神遅滞
 F70:軽度
 F71:中等度
 F72:重度
 F73:最重度
コミュニケーション症群
 言語症
 語音症
 小児期発症流暢症(吃音)
 社会的コミュニケーション症
 特定不能のコミュニケーション症
F8 心理的発達の障害
F80:会話および言語の特異的発達障害
 80.0:特異的会話構音障害
 80.1:表出性言語障害
 80.2:受容性言語障害
 80.3:てんかんに伴う獲得性失語(ランドウ・クレフナー症候群)
 80.3:他の会話および言語の発達障害
 80.4:会話および言語の発達障害、特定不能のもの
限局性学習症
 読字の障害を伴う
 書字表出の障害を伴う
 算数の障害を伴う
F81:学力の特異的発達障害
 81.0:特異的読字障害
 81.1:特異的綴字障害
 81.2:特異的算数能力障害
 81.3:学力の混合性障害
 81.8:他の学力の発達障害
 81.9:学力の発達障害、特定不能のもの
運動症群
 発達性協調運動症
 常同運動症
 チック症群
 トゥレット症
 持続性運動または音声チック障害
 暫定的チック症
 他の特定されるチック症
 特定不能のチック症
F82:運動能力の特異的発達障害
自閉スペクトラム症
F83:混合性特異的発達障害
F84:広汎性発達障害
 84.0:小児自閉症
 84.1:非定型自閉症
 84.2:レット症候群
 84.3:他の小児期崩壊性障害
 84.4:精神遅滞および常同運動に関連した過動性障害
 84.5:アスペルガー症候群
 84.8:他の広汎性発達障害
 84.9:広汎性発達障害、特定不能なもの
F88:他の心理的発達の障害
F89:特定不能の心理的発達障害
注意欠如・多動症
 混合して存在
 不注意優勢に存在
 多動・衝動優勢に存在
 他の特定される注意欠如・多動症
 特定不能の注意欠如・多動症
F9:小児期および青年期に通常発症する行動および情緒の障害
F90:多動性障害
 90.0:活動性および注意の障害
 90.1:多動性行為障害
 90.8:他の多動性障害
 90.9:多動性障害、特定不能のもの
秩序破壊的・衝動制御・素行症群へ
F91:行為障害
 91.0:家庭内に限られる行為障害
 91.1:非社会性行為障害
 91.2:社会性行為障害
 91.3:反抗挑戦性障害
 91.8:他の行為障害
 91.9:行為障害、特定不能のもの
F92:行為および情緒の混合性障害
 92.0:抑うつ性行為障害
 92.8:他の行為および情緒の混合性障害
 92.9:行為および情緒の混合性障害、特定不能のもの
不安症群へ
F93:小児期に特異的に発症する情緒障害
 93.0:小児期の分離不安障害
 93.1:小児期の恐怖性不安障害
 93.2:小児期の社会性不安障害
 93.3:同胞葛藤性障害
 93.8:他の小児期の情緒障害
 93.9:小児期の情緒障害、特定不能のもの
選択制緘黙症:不安症群へ
小児期の反応性愛着障害:心的外傷およびストレス障害へ
F94:小児期および青年期に特異的に発症する社会的機能の障害
 94.0:選択性緘黙
 94.1:小児期の反応性愛着障害
 94.2:小児期の脱抑制性愛着障害
 94.8:他の小児期の社会的機能の障害
 94.9:小児期の社会的機能の障害、特定不能のもの
運動症へ
F95:チック障害
 95.0:一過性チック障害
 95.1:慢性運動性あるいは音声チック障害
 95.2:音声および多発運動性の合併したチック障害(ド・ラ・トゥーレット症候群)
 95.8:他のチック障害
 95.9:チック障害、特定不能のもの
非器質性遺尿症:排泄症候群へ
幼児期および小児期の哺育障害:食行動障害および摂食症候群へ
常同性運動障害:運動症へ
吃音:コミュニケーション症へ
F98:通常小児期および青年期に発症する他の行動および情緒の障害
 98.0:非器質性遺尿症
 98.1:非器質性遺糞症
 98.2:幼児期および小児期の哺育障害
 98.3:幼児期および小児期の異食症
 98.4:常同性運動障害
 98.5:吃音
 98.6:早口言語症
 98.8:他の小児期および青年期に通常発症する特定の行動および情緒の障害
 98.9:小児期および青年期に通常発症する特定の行動および情緒の障害
F99:特定不能の精神障害

まとめ

DSM-5とは

アメリカ精神医学会が出版する、精神障害のための共通言語と標準的な基準を示した書籍の第5版

DSM-5の特徴(DSM-Ⅳからの変更点)
  • ディメンション診断(多元的診断)の導入
  • 自閉症スペクトラムの採用
  • 精神障害と発達障害が神経発達障害にまとめられる
DSM-5とICD-10の診断名

対象表参照

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