エンハンシング効果とは
エンハンシング効果とは、他人からの褒められたり期待されたりすることで、自発的なやる気が向上するという効果です。
心理学用語を用いて説明すると、「言語的な外発的動機づけによって内発的動機づけが高まる効果」です。
英語では「enhancing effect」と表記し、日本語ではエンハンシング効果と訳されます。
エンハンシング効果は、職場における人材育成における活用が知られていますが、他にも子育てや教育現場など様々なところで活用されています。
ただ単に他人をほめることは難しいことではありませんが、エンハンシング効果を生じさせるには知識と経験が必要で、安易に褒めすぎると逆効果になるおそれもあります。
- 動機づけ(モチベーション):行動を起こして、目的を達成するために行動を変化させたり調整したりする過程や意欲
- 内発的動機づけ:他人からの報酬や罰などに関わらず、本人の興味関心からもたらされる動機づけ
- 外発的動機づけ:本人の興味関心からではなく、他人からの報酬や罰によってもたらされる動機づけ
エンハンシング効果の実験
エンハンシング効果を初めて提唱したのは、アメリカ合衆国の発達心理学者ハーロック,E.B.です。
ハーロックは、1925年、小学生を被験者として、褒めることや叱ることが子どもの学習に与える影響を調べる実験を行いました。
- 被験者である9~11歳の小学生を3つのグループに分ける
- 被験者全員を同じ教室内に入れて同じ算数のテストを受けさせ、翌日に答案を被験者に返すことを5日間続ける(テストの問題も時間も同じ)
- グループによって、答案を返すときの先生の態度を変える
- Aグループ:点数に関わらず、できたところを褒める
- Bグループ:点数に関わらず、できていないところを叱る
- Cグループ:点数に関わらず、何も言わない(放任する)
実験の結果、テストの点数に関係なく褒められたAグループの子どもは、日を追うごとにテストの点数が良くなり、最終的には約71%も点数が高くなりました。
一方で、テストの点数に関係なく叱られたBグループの子どもは、2日目に約20%の点数の上昇が見られたものの、その後は徐々に点数が下降しました。
また、放任されたCグループの子どもは、5日間を通してテストの点数に有意な変化は見られませんでした。
実験結果からは、「褒めることは学習効果を促進する。」、「人は、叱られた場合よりも褒められた場合の方がやる気を出しやすい」ということが証明されたのです。
ハーロックは、この実験結果を踏まえてエンハンシング効果を提唱しました。
エンハンシング効果が生じやすい条件
エンハンシング効果は、とりあえず何でもいいから褒めれば生じるというものではありません。
エンハンシング効果が生じるかどうかは、「褒める人と褒められる人の関係性」と「褒める内容」が大きく影響しています。
褒める人と褒められる人の関係性
エンハンシング効果は、端的に言えば「褒められたいと思っている人から褒められたとき」に生じやすいものです。
信頼できる管理職、憧れの先輩、自分より能力が高い友人知人、小さい子どもであれば親などが当てはまります。
こうした人から褒められることで自己肯定感や有能感が高まり、「もっと頑張りたい」、「できないこともできるようになりたい」という気持ちが大きくなるのです。
例えば、仕事ぶりを褒められた場合、相手が信頼できる上司であれば素直にうれしくなり、次の仕事はもっと頑張ろうと思えます。
しかし、自分に仕事を押し付けてきた同僚から褒められても苛立つだけですし、初対面の人に褒められても「どうしてこの人から褒められるのだろう。」程度にしか思わないでしょう。
したがって、エンハンシング効果を狙って褒めるのであれば、普段から対象となる人との関係性を築いておくことが欠かせません。
褒める内容
エンハンシング効果が生じやすいのは、努力を褒めたときです。
外見や頭の良さなど生まれ持ったものを褒められると誇らしい気持ちにはなりますが、それ以上発展しにくいものです。
また、生まれ持ったものを褒められることで、それを失うまいと誤った行動をすると指摘する研究者もいます。
例えば、外見を褒められ続けると、常に周囲の目を気にし、強迫的と言えるまでに自分の外見を気にするようになることがあります。
頭の良さばかりを褒められた結果、失敗することを過剰におそれるようになる人もいます。
一方で、本人が「努力したこと=行動」を褒めると、もっと褒められようと新しいことにチャレンジしますし、より一層の努力をするようになります。
愚直に同じことを繰り返すのではなく、より効率的かつ確実に目的を達成できるよう工夫したり、他人の良いところを真似したりします。
また、行き詰っても諦めず、他人の力を借りるなどして目的を達成しようと努力します。
このように努力(行動)を褒めることは、エンハンシング効果を生じさせ、モチベーションを向上・維持させることに大きな意味を持ちます。
不定期に褒める
信頼している人や憧れている人から褒められると嬉しくなりますが、人は誰でも慣れたり飽きたりするものです。
信頼できる上司が、大した努力もしていない仕事まで逐一褒めてくると、褒められることに慣れて「褒めることの効果」が薄れますし、「本当に努力を認めてくれているのか。社交辞令ではないか。」という疑念も持ちやすくなります。
そのため、大きな仕事をやり遂げれば褒め、小さな仕事はあえて褒めないなどメリハリを付けて、褒める対象に「褒められるかどうか分からない」と感じさせておくことで、褒めたときにエンハンシング効果が生じやすくなります。
エンハンシング効果とアンダーマイニング効果
エンハンシング効果とは逆の効果に、アンダーマイニング効果があります。
アンダーマイニング効果とは、自発的に取り組んでいた行動に他人から報酬が与えられることで、やる気が失われるという効果です。
心理学用語を用いると、「内発的動機づけによる行動に外発的動機づけが付与されることでモチベーションが下がる効果」となります。
外発的な動機づけが自己決定感や有能感を低下させ、行動の目的を報酬を得ることにしてしまうことで、意欲が低下するのです。
アンダーマイニング効果は、外発的動機づけとして金銭などの物理的な報酬が与えられた場合や、他人から監視や評価をされた場合などに生じやすくなっています。
エンハンシング効果とは異なり、外発的動機づけをする人と本人の関係性はさほど重要とはされていません。
まとめ
他人の賞賛や期待(外発的動機づけ)によって、やる気(モチベーション)が向上するという効果
- 褒める人が本人が信頼する人や憧れる人であること
- 本人の行動(努力)を褒めること
- 不定期に褒めること
アンダーマイニング効果:自発的な行動に報酬などの外発的動機づけが与えられることでやる気が失われるという、エンハンシング効果とは逆の効果
エンハンシング効果が賞賛や期待などを言語的に与えられることで生じるのに対し、アンダーマイニング効果は物質的な報酬が与えられることで生じることが多い