フロイトの心理性的発達理論(発達段階)とは
フロイトの心理性的発達理論とは、フロイト,S.が提唱した、人の発達段階(人格形成)に関する理論です。
フロイトは、人の行動の基盤に性的欲求(リビドー、無意識の動機)を想定し、乳幼児期の子どもも性的欲求を持っていると考えました(幼児性欲理論)。
そして、発達に伴って性的欲求が充足される身体の部位が変化し、その部位に対応した人格が形成されるという心理性的発達理論を提唱しました。
幼児性欲理論
幼児性欲理論とは、人の性的本能が、思春期に初めて発現するのではなく、生まれたばかりの頃から存在しており、様々な活動の中で性的欲求充足を求めているという考え方です。
フロイトは、成人の性欲が性器性欲であるのに対して、幼児性欲は多様性を持った性欲であり、発達とともに性的欲求の対象となる身体の部位が変化すると説明します。
また、各発達段階で性的欲求が十分に満たされなかった場合、人格の偏りや神経症が生じやすくなるとされています。
固着と退行
心理性的発達理論では、人格の偏りや神経症などについて、各発達段階における固着や退行という概念を用いて説明されます。
固着 | ある発達段階で性的欲求が十分に満たされないことで、その段階に固執・執着し、次の段階へ進めないこと |
退行 | ある発達段階で性的欲求を満たす刺激が過剰に与えられることで、不適応を起こして前の段階に戻ること |
心理性的発達理論の課題
心理性的発達理論は、発達の初期段階における経験が人の性格を形成することを示し、その後の発達研究に影響を与えました。
エリクソン,E.H.も影響を受けた一人であり、生涯発達の観点から心理性的発達理論を拡張して心理社会的発達理論を提唱したことは有名です。
しかし、心理性的発達理論は、推論に基づいた解釈によるところが多く、実証的な検証は難しいとされています。
そのため、近年のエビデンスを重視する心理学の風潮の中では批判的に語られることが多いものです。
従前の乳児期から青年期までの発達理論と異なり、「人は生涯を通して発達する」という観点から、人の生涯を8つの発達段階に区分し、各段階に発達課題と危機、達成時に得られるものなどを設定。
エリクソンの発達理論については、「エリクソンの発達段階と発達課題とは?ライフサイクル理論を分かりやすく解説」で詳しく解説しています。
心理性的発達理論に基づく発達段階
フロイトは、幼児性欲理論に基づいて、口唇期、肛門期、男根期(エディプス期)、潜伏期、性器期という発達段階を想定し、各段階で身体の成長と性的な発達が絡み合って発達すると考えました。
発達段階 | 時期(年齢) |
口唇期 | 出生~2歳 |
肛門期 | 2~3歳 |
男根期(エディプス期) | 3~6歳 |
潜伏期 | 7~12歳 |
性器期 | 13歳~ |
口唇期
口唇期とは、授乳時の口唇(くちびる)への接触が性的快感をもたらす時期です。
母親との接触(母親への甘えと受容される経験)によって、依存的かつ受動的な特徴が形成されます。
母親とは、実の母親に限らず「主たる養育者」という意味で、母親代わりに子どもを養育する里親、祖父母、父親なども含まれます。
母親に甘えて受容してもらえる環境で養育されることで口唇欲求が満たされ、次の発達段階へと進むことができます。
しかし、そうした環境で養育されなかった場合は口唇に欲求が固着し、成長するにつれて以下のような特徴が現れます。
- 依存的で甘えん坊
- 自主性が乏しい
- 孤独を嫌がる
- 過食
- 喫煙・飲酒など嗜癖に陥りやすい
肛門期
肛門期とは、排泄の我慢や排泄後の感覚が性的快感をもたらす時期です。
トイレットトレーニングの時期であり、親からのしつけを内在化され、主張的かつ能動的な特徴が形成されていきます。
親から適切なしつけを受けることで欲求が満たされ、次の発達段階へと進むことができます。
しかし、親のしつけがルーズまたは過剰に厳しいものであった場合、固着が生じ、以下のような特徴が現れることになります。
- 几帳面
- けち(溜め込むことに快感を覚える)
- 頑固
- 几帳面
- ルーズでだらしない性格(反動形成による)
男根期(エディプス期)
男根期(エディプス期)とは、性器が性的快感をもたらす時期です。
男根期の子どもは、男の子と女の子の性器の違いに気づき、女の子に男根がない理由を父親に去勢されたためだと考えます。
男根期の男の子は、エディプスコンプレックスを抱きます。
エディプスコンプレックスとは、母親(異性の親)に対する性的欲求を抱き、父親(同性の親)をライバル視したり嫉妬したりすることです。
しかし同時に、父親の怒りを買って去勢される不安を感じ、父親と対立するのではなく、父親のような男性になることで、母親のような女性を得ることを目指すようになります。
その結果、男根期の男の子は、父親をモデルとして男らしい言動や態度をとるようになり、性的な役割を獲得すると考えられています。
女の子の場合も、異性の親と密接な関係を持って同性の親をライバル視しますが、迫害される不安を感じて対立を避け、同性の親を内在化させていきます。
- 異性の親に対する愛情・密接な関係
- 同性の親をライバル視・嫉妬
- 同性の親から迫害される不安(男の子の場合は去勢される不安)
- 同性の親への敵対心を抑圧
- 同性の親を内在化
男根期に固着すると、成長とともに以下の特徴がみられるようになります。
- 道徳性の欠如
- 権威的な存在への敵対心
- 攻撃的な性格
- 自己主張が強い
- リーダーシップを取ろうとする
潜伏期
潜伏期とは、性的欲求が抑圧されて、性的欲求充足以外の活動に関心が向く時期です。
潜伏期は、小学校の入学から卒業までに期間で、この子どもは、性的欲求充足よりも、知的な活動や社会的規範の学習に注力します。
また、同年代と一緒に過ごす中で、自分の能力を他人から評価されたり、他人と比較されたりする経験をすることで、自分の得手不得手や能力に注意を向けるようになります。
心理性的発達理論では、潜伏期に固着した場合の性格傾向について触れられていません。
性器期
性器期とは、口唇期、肛門期、男根期(エディプス期)の部分的な性的欲動が統合されて、成熟した性器が性的快感をもたらす時期です。
潜伏期よりも幅広い人間関係の中に放り込まれ、身体的にも第二次性徴を迎えて、心身ともに激しい変化の中で不安定さを抱えながら成長します。
潜伏期と同様、心理性的発達理論においては、性器期に固着した場合の性格傾向は示されていません。
しかし、成熟した感情を有し、人を愛して受容できる人として理想的な人格が形成されると考えられています。
心理性的発達理論では、乳児期から青年期までの変化を発達としており、性器期以降の発達段階が想定されていません。
まとめ
フロイト,S.が提唱した、人の発達段階(人格形成)に関する理論
発達に伴って性的欲求(リビドー)が充足される身体の部位が変化し、それに対応した人格が形成されると考える
- 固着:性的欲求充足が不十分な場合に、その段階に固執・執着して次の段階へ進めないこと
- 退行:性的欲求充足が過剰な場合に、不適応を起こして前の段階に戻ること
- 口唇期:口唇への接触が性的快感をもたらす
- 肛門期:肛門が性的快感をもたらす
- 男根期(エディプス期):性器が性的快感をもたらす
- 潜伏期:性的欲求充足以外の活動に注力する
- 性器期:成熟した性器が性的快感をもたらす
【参考】
- メタサイコロジー論 |フロイト,S.著、十川幸司翻訳|講談社学術文庫
- 精神分析入門上|フロイト,S.著、下坂幸三翻訳|新潮文庫
- 精神分析入門下|フロイト,S.著、下坂幸三翻訳|新潮文庫