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アイデンティティとは?意味と使い方を分かりやすく解説

アイデンティティ アイデンティティの拡散

アイデンティティの意味とは

アイデンティティとは、1950年代にアメリカの心理学者エリクソン,E.H.が提唱した概念です。

「アイデンティティ」や「アイデンティティの確立」などは日常生活の中でも見聞きすることがあり、心理学用語であることは認識されていますが、正確な意味を理解している人は限られています。

エリクソンとアイデンティティ

エリクソンは、ドイツで生まれますが、北欧系とユダヤ系が混ざった容貌によりドイツ人からもユダヤ人からも差別を受け、また、父親が誰なのかも知らされずに育ちます。

さらに、戦火を逃れるために生活拠点を移し、最終的にはアメリカ合衆国へ移住して国籍を取得します。

このように、出自が分からず、二重の差別を受け、故郷を離れるなど過酷な生活環境に身を置く中で、エリクソン自身が常に「自分は何者か」という問いと向き合っていたことが、アイデンティティという概念を生み出す要因になったと考えられています。

アイデンティティとエリクソンの発達段階

エリクソンは、人の発達段階を8つに区分し、各段階に発達課題・危機と発達課題をポジティブに克服した場合に獲得されるものを設定する心理社会的発達理論を提唱しました。

そして、心理社会的発達理論における青年期の発達課題としてアイデンティティの確立を設定しています。

時期年齢心理的課題獲得
乳児期出生~2歳基本的信頼vs不信希望
幼児期前期2~4歳自律性vs恥と疑惑意思
幼児期後期4~6歳自主性vs罪悪感目的
学童期6~12歳勤勉性vs劣等感有能感
青年期12~22歳同一性vs同一性拡散忠誠性
成人期22~40歳親密性vs孤立
壮年期40~64歳世代性vs停滞性世話
老年期65歳以降自己統合vs絶望英知

※各期間は、日本の法律などとは異なるところがありますが、心理社会的発達理論に基づいて記載しています。

引用:エリクソンの心理社会的発達理論(発達段階)|psycho-lo

表中の同一性がアイデンティティです。

エリクソンは、青年期にアイデンティティの確立をポジティブに実現させることができたか否かが、その後の人格形成に重要な影響を及ぼすと説明しています。

アイデンティティの一般的な意味

辞書でアイデンティティの意味を引くと、以下のように説明されています。

  1. 自己が環境や時間の変化にかかわらず、連続する同一のものであること。主体性。自己同一性。「アイデンティティーの喪失」
  2. 本人にまちがいないこと。また、身分証明。

出典:大辞泉|小学館

また、一般的にアイデンティティという場合、「自分らしさ」や「自分とは何か」という意味で使用されることが多くなっています。

英語の「identity」は「自己同一性」と翻訳されることが多いですが、「自分らしさ」や「自分とは何か」と同じような意味と考えて間違いではありません。

発達心理学におけるアイデンティティ

発達心理学では、「自分とは何者か」という自己定義や、自分が社会の中で何を為し、どのように生きるかという自覚や存在意識という意味でアイデンティティが使用されます。

その定義は一義的ではありませんが、通常は2つの側面から捉えられます。

自分の意義や存在自分の未来をポジティブに捉え、自分は他の何物でもないユニークな存在であると認識すること

自分の性格、目標、使命、可能性などをはっきり自覚し、それらを自分の意思でコントロールできると確信すること

社会や歴史の中の自分社会(集団)の中で生きていて、その一員として与えられた役割、義務、責任などを果たすことを認識すること

アイデンティティを分かりやすく表現すると

アイデンティティを分かりやすく表現すると、「私は他の誰でもないユニークな自分である。」、「将来の目標が明確である。」、「過去の私も未来の私も私である。」、「私の真の姿と、他人がイメージする私の姿は一致している。」という感覚を、自分自身が持つということです。

つまり、他人の評価ではなく、自分が自分自身に対して抱く「主体的に人生を生きていくことができる自分」という感覚がアイデンティティなのです。

例えば、他人から「一代で会社をここまで大きくするなんて大したものだ。」と評価されても、自分自身が同じ評価をしていなければ、アイデンティティとはなり得ません。

また、「「あなたはどのような人ですか。」という質問に対して、自分自身が答えた内容=アイデンティティである。」ということもできます。

具体例を見てみましょう。

A子さんが、「あなたはどのような人ですか。」と聞かれて、以下のように答えたとします。

  • 私は日本人とアメリカ人のハーフである
  • 3歳の男の子と0歳の女の子の母親である
  • 普段は穏やかだが、思い込みが激しい人間である
  • 誰とでも仲良くできるが、一人の時間も大切にしたい人間である

これらのA子さんの回答の内容そのものが、A子さんにとってのアイデンティティです。

自分自身がどのような人間であるか言葉で説明することができ、説明内容に自分自身が納得している場合、それがアイデンティティだと考えることができます。

アイデンティティの確立

アイデンティティの確立とは、「自分とは何者か」を模索し、自分なりの答えを見つけた状態です。

発達心理学においては、アイデンティティの確立は青年期の課題であり、青年期にひとまず確立されるべきとされています。

一方で、青年期に確立されたアイデンティティは、その後の人生を主体的に生きるための基礎であり、青年期以降の発達段階において具体的に達成されていくとも考えられています。

人は、青年期以降も就職、結婚、子育て、親の介護、孫の誕生、老いなどの課題と直面し、その度に、自分の生き方と所属する社会(集団)からの要請の間で葛藤し、「自分とは何者か」を決定しなくてはなりません。

青年期にアイデンティティが確立されていると、その後の人生で「自分とは何者か」に迷っても、状況に応じた「自分が何者か」を見いだしやすくなるのです。

アイデンティティの拡散

アイデンティティの拡散とは、アイデンティティの確立の対立概念であり、青年期にアイデンティティの確立が達成できなかった場合に生じる状態です。

アイデンティティの拡散した人は、過去の自分を肯定できず、自分が何者で何を為したいのかも分からず、自分が自分であることも実感できず悩み続けます。

具体的には、以下のような感覚を持ちます。

  • 過去の自分を捨ててしまいたい
  • 将来の目標が持てない(やりたいことがない)
  • 今の自分は真の自分ではなく、偽りの自分を演じている
  • 自分は存在意義のないちっぽけな人間である

なお、アイデンティティの拡散は、発達課題を克服できなかった結果だと思われがちですが、誤解です。

誰でも一度はアイデンティティの拡散を経験し、その中でもがき苦しみながら徐々にアイデンティティを確立させていくものであり、拡散を経験せずにアイデンティティを確立することはあり得ません。

アイデンティティ・クライシス(アイデンティティの危機)

アイデンティティ・クライシス(アイデンティティの危機)とは、自分の存在意義や社会的な役割が失われたという感覚を持つ状態です。

アイデンティティ・クライシスは、アイデンティティの拡散を引き起こしやすい状態であり、具体的には以下のような状況jで陥りやすいと考えられています。

  • 受験に失敗した
  • 就職活動に失敗した
  • 失恋した
  • 転職や転校をして環境や人間関係が激変したなど

アイデンティティの使い方

アイデンティティの使い方にも触れておきます。

発達心理学においては、「アイデンティティの確立」、「アイデンティティの拡散」、「アイデンティティ・クライシス」などが使用されています。

一般社会でアイデンティティが使用されているケースとしては、ナショナルアイデンティティやコーポレートアイデンティティを挙げることができます。

ナショナルアイデンティティ国民としての自己認識
コーポレートアイデンティティ企業の個性や特性を明確に打ち出したイメージ・デザイン(マーク、ロゴ、ブランド名)

企業の個性や特性をシンプルに発信して社会と共有することで企業価値を高める戦略

まとめ

アイデンティティの意味とは

自身が自分自身に対して抱く「主体的に人生を生きていくことができる自分(自分が何者かに対する肯定的な答え)」という感覚

アイデンティティの確立

「自分とは何者か」を模索して自分なりの答えを見つけた状態

アイデンティティの拡散

過去の自分を肯定できず、自分が何者で何を為したいのかも分からず、自分が自分であることも実感できない状態

アイデンティティの確立の過程で誰もが直面する

アイデンティティの使い方
  • ナショナルアイデンティティ
  • コーポレートアイデンティティなど

【参考】

  • 発達心理学の最先端 認知と社会科の発達科学|中澤潤編著|あいり出版