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マターナル・デプリベーション(母性剥奪)とは?ホスピタリズムとの違いは?

マターナル・デプリベーション 母性剥奪

マターナル・デプリベーション(母性剥奪)とは

マターナル・デプリベーションとは、愛着形成や心身の健全な発達に必要な発達初期における養育者との心理的・情緒的相互作用が著しく阻害された状況のことです。

イギリスの精神科医・児童精神分析学者ボウルビィ,J.が提唱した概念です。

英語では「maternal deprivation」と表記し、日本語では「マターナル・デプリベーション」とカタカナ表記されるか、「母性剥奪」と訳されています。

子どもは、最も親しい養育者(一般家庭では母親であることが多い)とのやりとりを繰り返し、徐々に養育者との「絆」を築き、周囲への安心感や他人への信頼感(基本的信頼感)を育みます。

例えば、授乳やオムツ交換などのお世話、話しかけや微笑みかけなどのコミュニケーション、抱っこや頬ずりなどのボディタッチなど、養育者の日常的な関わりが子どもとの絆を深め、心身の健全な発達の基礎となります。

しかし、心理的・情緒的なやりとりをする対象がいないと、他人との絆を築く機会が得られず、安心感や信頼感も育まれないため、子どもの心身の発達に深刻な影響が及ぶことになります。

なお、マターナルデプリベーションは、「マターナル」や「母性」という単語から、母子関係に限定された概念だと思われることがあります。

しかし、母親を含む養育者との相互作用が極端に少ない状況を表す概念であり、その対象は母親に限定されているわけではありません。

マターナル・デプリベーション(母性剥奪)の症状

マターナル・デプリベーションにより、子どもには以下のような症状が見られるとされています。

  • 発達の遅れ
  • 抵抗力や免疫の低下
  • 死亡率の上昇
  • 適応不良
  • 無関心
  • 動きの乏しさ
  • 発声の乏しさ
  • 笑顔や呼びかけへの反応の乏しさ
  • 食欲不振
  • 他人への不信感

ボウルビィとマターナル・デプリベーション(母性剥奪)

ボウルビィは、1950年代のイタリアにおいて孤児院などに収容された戦災孤児の発達の遅れや死亡率の高さなどが問題となったときに、世界保健機関(WHO)の調査に携わりました。

そして、1951年にWHOの調査報告として「乳幼児の精神衛生」を発表し、戦災孤児らに見られた諸症状の原因は施設収容自体ではなく、最も親しい養育者と引き離されたこと、その後に置かれた環境が不十分なこと、環境に不慣れであることだという考えを示しました。

当時、戦災孤児の問題はホスピタリズム(施設病)の影響によるものだと考えられていましたが、ボウルビィは、世界各国の研究結果を集約し、マターナル・デプリベーション(母性剥奪)による影響が大きいと主張したのです。

以下、ホスピタリズムについても解説します。

マターナル・デプリベーション(母性剥奪)とホスピタリズム

マターナル・デプリベーションという概念が提唱される前は、戦災孤児などに見られる症状がホスピタリズムという概念で説明されていました。

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ホスピタリズムとは

ホスピタリズムとは、長期にわたって家庭外の環境(乳児院、児童養護施設、児童自立支援施設など)で生活する子どもに見られる心身の発達の遅れや人格形成上の問題のことです。

英語では「hospitalism」と表記され、日本語では「ホスピタリズム」とカタカナ表記されるか「施設病」や「施設症」と訳されています。

ホスピタリズムは、アメリカ合衆国の精神分析家スピッツ,R.A.が1945年に提唱した概念です。

通常、子どもは、主な養育者である親に甘えや愛情の欲求を向け、それを受け入れてもらうことで安心感や信頼感を育みます。

しかし、施設などで養育された場合、シフトや異動で職員が頻繁に変わることから甘えや愛情を向ける対象が決まりにくく、また、職員の愛情を独占することも不可能です。

そのため、徐々に感情や情緒の表現が乏しくなり、愛着対象との関係性の中で育まれる周囲への安心感や他人への信頼感、コミュニケーション能力なども未熟な段階に留まるとされていました。

マターナル・デプリベーションとホスピタリズムの違い

マターナル・デプリベーションとホスピタリズムは、似た概念であり、区別されずに使用されていることもあります。

しかし厳密には、前者は、甘えや愛情の対象となる養育者とのやり取りが著しく阻害された状況を表す概念なのに対して、後者は、そうした状況の結果として生じた障害や発達の遅れを表す概念という違いがあります。

マターナル・デプリベーションによって生じた状態を表す単語としては、「愛情遮断症候群(Maternal Deprivation Syndrome)」が使用されています。

マターナル・デプリベーションという概念が提唱された後、ホスピタリズムが使用される機会は減りましたが、心理学の教科書などでは掲載されることがあるため、解説しました。

まとめ

マターナル・デプリベーション
ボウルビィ,J.が提唱した、発達初期における養育者との心理的・情緒的相互作用が著しく阻害された状況
ホスピタリズムとの違い
ホスピタリズム:長期間、家庭外の環境で生活する子どもに見られる心身の発達の遅れや人格形成上の問題

「養育者とのやり取りが著しく阻害された状況」か「状況の結果として生じた症状」かの違いがある

【参考】

  • 母親剥奪理論の功罪―マターナル・デプリベーションの再検討|マイケル・ラター著、北見芳雄著|誠信書房
  • ホスピタリズムの研究―乳児院保育における日本の実態と克服の歴史|金子保著|川島書店
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