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モラトリアムの意味とは?青年期に多いモラトリアム人間から脱却法は?

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モラトリアムの意味とは

モラトリアムとは、アイデンティティ確立のために自分自身を見つめなおし、様々なことにチャレンジして生き方や価値観、職業などを決定するために、社会へ出て義務や責任を担うことが社会的に猶予された期間のことです。

青年期を生きる人が、「自分は何者か。」、「自分は何を為す存在か。」という問いと向き合って「大人になるための猶予期間」と言い換えることもできます。

英語では「moratorium」と表記され、日本語では「モラトリアム」とカタカナ表記されるか「心理社会的猶予期間」、「社会心理的モラトリアム」と訳されます。

モラトリアムの意味

モラトリアムは、元々は「支払い猶予」や「猶予期間」を意味する経済用語です。

例えば、「債務の支払いが猶予される期間」や「法律が公布されてから施行されるまでの猶予期間」を表すときに使用されます。

モラトリアムが心理学用語として使用されるようになったのは、発達心理学者のエリクソン,E.H.の影響です。

エリクソンは、「青年(発達段階の青年期を生きる人)がアイデンティティを確立するためには、社会的な義務や責任を負うことを猶予され、自分の模索や様々な役割を試行する期間が社会的に保証されなければならない。」と主張しました。

そして、社会的義務や責任を負うことが社会的に猶予される期間をモラトリアムと名づけ、以降、モラトリアムが心理学用語として定着しました。

エリクソンの心理社会的発達理論(ライフサイクル理論)とモラトリアム

エリクソンは、「人は出生してから死に至るまで発達する」という生涯発達の考え方に基づいて、心理社会的発達理論(ライフサイクル理論)を提唱しています。

ライフサイクル理論では、人の発達段階が8つに区分され、各段階に発達課題と、成長や健康に向かうポジティブな力と衰退や病理に向かうネガティブな力がせめぎ合う構造が設定されています。

そして、発達課題がどのように達成されるかによって人の発達が大きな影響を受けると説明しています。

発達段階発達課題
乳児期(出生~2歳)基本的信頼vs不信
幼児期前期(2~4歳)自律性vs恥と疑惑
幼児期後期(4~6歳)自主性vs罪悪感
学童期(6~12歳)勤勉性vs劣等感
青年期(12~22歳)同一性vs同一性拡散
成人期(22~40歳)親密性vs孤立
壮年期(40~64歳)世代性vs停滞性
老年期(65歳以降)自己統合vs絶望

なお、日本における青年期の終期は、大学や大学院を卒業する年齢(22~27歳頃)までとなっており、エリクソンが設定した青年期よりも延長されています。

また、発達加速現象などの影響により、青年期が開始する時期も表中の時期より早まる傾向があります。

エリクソンの発達理論については、「エリクソンの発達段階と発達課題とは?ライフサイクル理論を分かりやすく解説」で詳しく解説しています。

モラトリアムの期間

モラトリアムの期間は、国や地域によって異なります。

現代日本においては、年齢的には18歳から22~27歳頃、つまり、大学(または大学院)の期間がモラトリアムとされるのが一般的です。

しかし、モラトリアムの期間については研究者の間で意見が分かれるところで、義務教育を終えた後(15歳頃)からモラトリアムだと主張する研究者も少なくありません。

また、モラトリアムの期間を特定する必要性がないと主張する研究者もいます。

日本におけるモラトリアム

エリクソンは、モラトリアムを「青年期を生きる人がアイデンティティを確立するために必要な期間であり、社会的に保証されるべき。」だと主張しています。

本来のモラトリアムは、「自分が何者で何を為すべき存在か。」という問いの答えを見つけて社会へ出るために、社会的な義務や責任を担うことを社会的に猶予される期間であり、否定的な意味合いはありません。

ところが、日本においては、「本来のモラトリアムの期間が過ぎてもそこから抜け出さず、社会的責任や義務を果たそうとしない状態」を指してモラトリアムという心理学用語が用いられる傾向があります。

つまり、「大人になろうとしない状態。」を表すために使用されることが多いのです。

その典型的な例が、モラトリアム人間です。

モラトリアム人間とは

モラトリアム人間とは、年齢的には大人になって社会に出る時期に達しているにも関わらず、人生の選択を避けて大人になること(社会的責任や義務を果たすこと)を拒否し、猶予を求め続ける人のことです。

日本の精神分析家である小此木啓吾が、著書「モラトリアム人間の時代」の中で使用したことがきっかけで流行し、一気に知名度が高まりました。

小此木は、1960年代以降、大学留年を続けて大学卒業後も定職に就かない青年が増加した状況を分析しました。

また、「いつまでもモラトリアムに留まり、アイデンティティを確立しない心理的な構造が、青年だけでなく各年代や各階層の心に一般化している。」と指摘し、そうした心理的な構造を持った人をモラトリアム人間と名づけました。

モラトリアム人間の主な特徴として指摘されているのは、以下のとおりです。

  • 自分の可能性を捨てきれず、選択を回避する
  • ありのままの自分を認められない
  • 社会に対する当事者意識を欠く・帰属を怖がる
  • 無気力になる

自分の可能性を切り捨てず、選択を回避する

モラトリアム期間は、自分を模索したり様々な役割を試したりすることができる、いわゆる「お試し期間」です。

人は、お試し期間の中で、無数にある可能性を切り捨てて自分の生き方を選択し、社会に出て責任や義務を担いながら生きていくことになります。

しかし、モラトリアム人間は、自分が持つ多様な可能性をどれも捨てきれず、好きな時に自由に選び、嫌になれば捨てることができます。

良くいうと柔軟性がある状態ですが、いつまでも生き方を選択できず、アイデンティティが確立されない状態が継続するということです。

学業も仕事も続かず、職を転々としたり、家に引きこもって親に寄生したりしがちで、他人から非難されても「まだ、本気出してないだけ。」、「いずれやるから。やる力があるから。」と反論し、自分を正当化します。

ありのままの自分を認められない

一方で、どこにも所属せず、責任も義務も果たすことができない自分に対する後ろめたさも有しています。

そのため、モラトリアムを求め続けたいと思いながら、自分に対する評価は低下する傾向があります。

表面的には正当化しても、内面までは誤魔化しきれずにいるのです。

ただし、過剰な自意識にふけって自分を万能だと思うようになり、世の中の物事全てを自分にはふさわしくないと感じ、何事も長続きせず、何も達成できない状態に陥ることもあります。

社会に対する当事者意識を欠く・帰属を怖がる

モラトリアム人間は、どこにいてもお客様で、社会に対する帰属意識が乏しい傾向があります。

社会的な責任や義務を負わされる状況に立った経験がなく、当事者意識を持つことが難しいのです。

また、集団の中に飲み込まれてしまうのではないかという恐怖を抱き、集団への帰属を回避しようとする傾向もあります。

その結果、モラトリアムを終えて社会に出た友人と考え方、価値観、行動が合わなくなり、孤立するようになります。

無気力になる

可能性を切り捨てる選択を避け続けた結果、いつまでもアイデンティティが確立されず、社会的な責任や義務を負わされることもない生活を送る中で、何をしても虚しいという感覚にとりつかれ、無気力状態に陥ることがあります。

何事も一時的でその場限りとしか感じることができず、将来の展望も持てず、人との関わりも減少するなど、生き生きと社会生活を送ることが困難になっていくのです。

モラトリアム人間からの脱却方法

現代日本におけるモラトリアム人間は、小此木が「モラトリアム人間の時代」を著した頃よりもモラトリアムに留まる期間が長くなり、人数も増加していると考えられています。

その背景には、時代が進むにつれて青年を取り巻く環境が変化していることが影響しています。

要因具体例
家庭環境ひとり親家庭、親がいない家庭、過保護や過干渉、DVや児童虐待など
周辺環境情報社会化に伴う選択肢の急増、就労形態の多様化、ライフスタイルの多様化、価値観の多様化、指導者やモデルの不在、他人との関係の希薄化など
ネットの発達ネットやスマホの普及、ネットを介したビジネスや対人関係が可能になったなど

モラトリアム人間を脱するためには、まず、自分がやりたいことを実際にやってみることです。

行動を繰り返すことで「やりたいこと」と「できること」が自分の中で分別され、徐々に選択肢が狭まっていきます。

選択肢が狭まることは怖いことですが、一方で「自分ができること」が明確化され、やりがいや充実感も湧いてきて、進むべき道が見えてくるものです。

ただし、モラトリアム人間の中には、レジリエンスが弱い上に不健全な生活スタイルが定着して精神的に不安定な状態に陥っている人が一定数います。

そうした人がモラトリアム人間を脱却するには、本人のレジリエンスや生活スタイルを改善させる周囲の関わりが欠かせません。

MEMO

レジリエンス:困難な状況でもしなやかに適応して生き抜く力

まとめ

モラトリアムの意味
青年がアイデンティティを確立するために、責任を果たすことが社会的に猶予された期間(大人になるための猶予期間)
モラトリアムの期間
  • 国や地域で異なる
  • 日本では18歳から22~27歳頃(大学または大学院)
日本におけるモラトリアム

「モラトリアムの期間が過ぎても、社会的責任や義務を果たそうとしない状態」という否定的な意味で使用される傾向

モラトリアム人間とは

社会に出る時期に達しているにも関わらず、社会的責任や義務を果たすことを拒否してモラトリアムに留まり続ける人

【参考】

  • 発達心理学の最先端 認知と社会科の発達科学|中澤潤編著|あいり出版
  • モラトリアム人間の時代|小此木啓吾|中央公論新社