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対象喪失とは?悲嘆反応と喪の作業(乗り越え方)、複雑性悲嘆に陥る要因は?

対象喪失

対象喪失とは

対象喪失とは、ある人にとって大切なものを失うことです。

「対象」とは、その人と情緒的に強く結びついているもののことであり、必ずしも恋人や配偶者、子供、親、友人など近しい人とは限りません。

例えば、漫画やアニメなどの空想増の人物、ペット、定年まで勤めあげた会社、長年愛用していた道具、自身の健康、住み慣れた地域、自己イメージなどが喪失の「対象」となりえます。

対象喪失は人の心に大きなストレスをもたらすとともに喪失感、悲哀、怒り、不安、焦りなどの感情を生じさせ、抑うつ状態に陥るなど社会生活に深刻な影響が及ぶことも珍しくありません。

対象喪失の具体例

対象喪失が生じるのは、以下のような場合です。

  • 恋人・配偶者、子ども、親、友人など身近な人が死亡した
  • 病気や事故・事件で健康を害した
  • 災害で家や家財をを失った
  • 思い出の品を亡くした
  • 長年勤めた勤務先を退職した、または、解雇された
  • 住み慣れた街を引っ越した
  • 慣れ親しんだコミュニティが閉鎖された

フロイト,S.は、対象喪失の後、時間とともに心が整理される過程を「喪の作業」、「悲哀の仕事」と呼び、正常・異常研究の端緒を開きました。

また、ボウルビィ,J.は悲哀の心理過程(喪失への抗議、絶望、離脱)の研究を行い、キューブラー=ロス,E.は、対象喪失からの回復過程に死の需要と似た過程を見出すなど、多くの研究者が対象喪失に関する研究を発表しています。

現在は、グリーフカウンセリングによる治療が行われるようになっています。

悲嘆反応とは

悲嘆反応とは、対象喪失によって生じる様々な反応の総称です。

どのような悲嘆反応が生じるか、反応の程度、反応の継続期間などは個人差があります。

悲嘆反応によって生じる感情

感情具体的な内容
感覚麻痺対象の喪失を現実ではないように感じる、感覚が麻痺する
否認対象喪失を受け入れられない、認められない
無力感、絶望感何もやる気がしない、生きる意味や希望を見失う、人生を終わらせたいと思う
恐怖、不安孤独になる不安、再び大切なものを失う恐怖、周囲が危険に満ちているという恐怖
悲しみ喪失した対象に会えないという悲しみ、元の生活に戻れない悲しみ
怒り喪失に対する怒り、運命への怒り、対象喪失の原因を作った人や出来事への怒り、周囲の無理解への怒り、自分ばかりが不幸になるという怒り、自分への怒り
思慕喪失した対象に会いたいという強い思い
自責感対象を喪失させたふがいない自分自身や自分の行動を責める、生き残った自分を責める
希望対象が戻ってくるのではないかという希望
悲嘆反応によって生じる思考や行動など
症状具体的な内容
思考喪失した対象のことが頭から離れない、対象喪失の原因となった出来事を繰り返し思い出す、防げたのではないかと考える
集中力何事にも集中できなくなり、一時的に理解力、思考力、判断力が低下する
身体症状慢性的な疲労感、頭痛・めまい、食欲減退、不眠、息苦しさ、口の中が乾く、身体に力が入らない、動悸、周囲の刺激に過敏になる
行動泣き続ける、家でも職場でも茫然としている、喪失した対象を思い出さないように過剰に仕事や家事をする、ひきこもる、依存する(アルコール、薬、ギャンブルなど)
対人関係対人関係が疎遠または険悪になる、一人でいられなくなる

悲嘆反応の特徴

悲嘆反応の特徴として、悲嘆の波、記念日反応、役割喪失を挙げることができます。

悲嘆の波
悲嘆反応は、常に同じ程度に悲しみに暮れるのではなく、あるときは強い感情が噴出し、あるときは収束するもので、大きな感情の波が起こったり落ち着いたりを繰り返すこと
記念日反応対象を喪失した日、対象の誕生日、結婚記念日など思い出が詰まった日などは、立ち直ってから時間が経過しても悲しみが戻りやすいこと
役割喪失夫や妻、親や子など、喪失した対象との関係の中にあった自分の役割が失われ、自分の存在価値や生きる意味を失ったように感じること

思いがけない対象喪失による悲嘆反応

交通事故、犯罪、災害など思いがけない出来事によって対象喪失を経験した場合、一般的な悲嘆反応と比較して症状が複雑化・長期化しやすい傾向があります。

具体的には、被現実感が長期間にわたって続いたり、罪悪感にさいなまれ続けたりしやすいものです。

複雑性悲嘆(病的悲嘆)

対象喪失の直後に感じる強い喪失体験が、喪失から1年を経過してもなお遷延しているときは、複雑性悲嘆(病的悲嘆)と呼ばれます。

病的悲嘆は、心理学的・精神医学的援助の対象となるのが一般的です。

喪の作業がうまくいかなかった場合に複雑性悲嘆に陥るとされており、具体的には以下の要因が影響すると考えられています。

  • 喪失した対象:本人との関係、続柄、年齢など
  • 愛着の性質:強さ、アンビバレンス、依存的関係、葛藤、軋轢など
  • 喪失の原因:距離、場所、予期可能性、防ぐことができたかどうか、不確実な死かどうか、暴力によるかなど
  • パーソナリティ:年齢、性別、愛着・認知・コーピングのスタイル、自我の強さなど
  • 社会:社会的支援の利用可能性、支援の程度、社会的役割への関与、宗教など
  • 連鎖的なストレスの有無や程度

複雑性悲嘆への対処は、早期発見と早期治療です。

喪の作業(悲嘆反応からの回復の過程)

藻の作業とは、対象喪失を経験した人が、時間の経過とともに辿る過程のことです。

フロイトが「喪の作業」という言葉を最初に使用し、ボウルビィが4つの段階にまとめました。

喪の作業の4段階
第1段階:無感覚・情緒危機・ショックで心が麻痺し、対象喪失を現実として受け止められない段階

・対象喪失から約1週間

第2段階:思慕と探求・怒りと否認・対象喪失を現実として受け止め始め、思慕や悲嘆の感情に悩まされる

・対象喪失を十分に認められず、喪失した対象への強い愛着や戻ってくるという感覚を抱く

・喪失原因を作った人や出来事への怒りや抗議も始まる

第3段階:断念・混乱・絶望・対象喪失を現実として受け入れ、愛着は抱かなくなる

・生きる意味を見失って混乱し、絶望や失意に飲み込まれて抑うつ状態がひどくなる

第4段階:離脱・再建・回復・喪失した対象なしでも生きていけると感じるようになる

・新しい人間関係や環境で立ち直りに向けて行動を始める

喪の作業(悲哀反応からの回復)の過程は、「3歩進んで2歩下がる」と表現されるように、一時的に回復していると思っても、何らかのきっかけですぐ前の段階に戻ることを繰り返して進みます。

行きつ戻りつを繰り返しながら、少しずつ、しかし確実に回復へ向かって歩を進めるのが喪の作業です。

悲嘆への対処は、悲しみに向き合う過程と新しい生活に取り組む過程をバランスよく交互にこなすことが重要とされており、本人もその周囲にいる人も根気強さが求められます。

公認心理師試験の出題歴

対象喪失は、第1回公認心理師試験で出題されました(正答は赤字)。

問20 対象喪失に伴う悲嘆反応に対する心理的支援について、正しいものを1つ選べ。

①悲嘆を悪化させないためには、喪失した対象を断念することを勧める。

②理不尽な喪失体験に遭遇したときは、現実検討ではなく気分の転換を優先する。

③喪失した対象に対する悲嘆過程を共に体験し、その意味を共に探ることが目標である。

④悲嘆が病的な反応へと陥らないように、健康な自我の働きを支えることが目標である。

⑤悲嘆反応の中で出てくる喪失した対象への罪悪感は、病的悪化の要因になりやすいため、心理的支援の中で扱うことは避ける。

引用:第1回公認心理師試験問題

問20は、複数の選択肢(③と④)が正しい内容であることから、いずれでも正答となります。

まとめ

対象喪失とは

情緒的に強いつながりがあった対象を失うこと

悲嘆反応とは

対象喪失によって生じる様々な感情、思考、身体反応などの総称

複雑性悲嘆(病的悲嘆):対象喪失直後の強い喪失体験が、喪失から1年を経過しても遷延している状態

喪の作業(悲嘆反応からの回復の過程)
  • 第1段階:無感覚・情緒危機
  • 第2段階:思慕と探求・怒りと否認
  • 第3段階:断念・混乱・絶望
  • 第4段階:離脱・再建・回復
公認心理師試験の出題歴

第1回試験・問20