心理学用語や心理学を活かせる仕事を解説

感情の生起に関する心理学:ジェームズランゲ説とキャノンバード説など

感情とは

感情とは、人が物事や対象に対して抱く気持ちです。

私たちが日常生活の中で抱く感情には、以下のようなものがあります。

安心、不安、期待、恐怖、優越感、劣等感、驚き、興奮、好奇心、快感、不快感、苦しみ、悲しみ、後悔、満足、不満、怒り、困惑、嫌悪、緊張、嫉妬、罪悪感、絶望、希望、愛おしさ、親近感、むなしさ、恥ずかしさ、無念さなど

列挙したのは私たちの感情のほんの一部ですが、どれも一度は抱いたことがある感情でしょう。

気分と情動

心理学の世界では、感情を表す言葉として気分や情動が使われることがあります。

気分必ずしも意識されず、また、生起された原因がはっきりしないこともある弱い感情
情動生起された原因が明らかで、明確に意識される強い感情

感情の経験

感情の経験は、「刺激」、「感情の生起」、「生理的反応」、「表出行動」から構成されますが、その順番については多くの研究者が異なる説を提唱しています。

一般的な心理学の教科書に掲載されている説は、以下のとおりです。

  • ジェームズランゲ説(抹消起源説):ジェームズ、ランゲ
  • キャノンバード説(中枢起源説):キャノン、バード
  • 情動2要因説:シャクター、シンガー
  • 表情フィードバック仮説:トムキンス、エクマン
  • 基本的情動理論:イザードら
  • 感情の認知説:アーノルド
  • 認知的評価と感情の独立説:ザイアンス

以下、一つひとつ解説していきます。

ジェームズランゲ説(抹消起源説)

ジェームズランゲ説(抹消起源説)とは、アメリカの心理学者ジェームズ,W.とデンマークの心理学者ランゲ,C.が提唱した感情に関する説です。

ジェームズとランゲは、大脳の感覚皮質が刺激を知覚して生理的反応が起こり、その反応が脳に知覚されて感情が生じると考え、生理的変化が生じた後に感情の変化が起こると主張しました。

つまり、「刺激→生理的変化→表出行動→感情の生起」という順番で感情が経験されると考えたのです。

簡単に言えば、「悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しい」、「楽しいから笑うのではなく、笑うから楽しい」と考えるのが抹消起源説(ジェームズランゲ説)です。

しかし、末梢神経系の特定の生理的変化が特定の感情を生み出すと考えられるところ、末梢神経系と脳の結合が断たれた状態でも感情表出が見られるため、生理的変化が感情を生起させるというジェームズランゲ説は誤りであるという指摘もあります。

キャノンバード説(中枢起源説)

キャノンバード説(中枢起源説)とは、キャノン,W.B.が提唱してバード,P.が修正した感情の経験に関する説です。

ジェームズランゲ説(抹消起源説)に対する説であり、中枢起源説とも呼ばれます。

キャノンは、感覚インパルスが視床を通過中に情動特性を付与され、大脳皮質に伝わることで感情が生起され、一方では身体にも情報が送られて生理的変化が生じると考えました(バードは視床下部を重視)。

つまり、「刺激→感情の生起→生理的変化→表出行動」の順番で感情が経験されるということです。

「泣くから悲しい」と考えるジェームズランゲ説に対し、「悲しいから泣く」と主張したのがキャノンバード説です。

感情の2要因説

感情の2要因説とは、アメリカの心理学者シャクター,S.とシンガー,J.による感情に関する説です。

シャクターとシンガーは、以下の2つの要因によって感情が生起されると考えました。

  • 生理的変化
  • 生理的反応の原因の認知

シャクターらは、生理的変化自体が情動の種類を決定するのではなく、生理的変化の原因を類推する「原因帰属の認知」が情動の種類や生起を決めると主張しました。

つまり、ある生理的反応が起こったときに、「どのような状態に置かれているのだろう。」などと推測して評価・解釈することが感情を生起させる重要な要因であると考えたのです。

表情フィードバック仮説

表情フィードバック仮説とは、心理学者のトムキンズ,S.が提唱した感情に関する仮説です。

トムキンズは、ジェームズランゲ説の科学的な検証を試みた人物で、表情に関する情報が脳にフィードバックされることで、表情と結びついた感情を引き起こすという表情フィードバック仮説を提唱しました。

その後、ストラック,F.らの実験で表情フィードバック仮説を支持する結果が得られましたが、2015年にバージニア大学が行った研究では仮説を支持しない結果が得られ、現在も仮説の真偽について議論が続いています。

基本的情動理論

基本的情動理論とは、基本感情が特定の刺激を知覚することで生起され、固有の表情や姿勢を表出させて、自律神経系の活動を引き起こすという理論です。

この理論では、感情の生起の家庭などが通文化的普遍性があると主張されることが多いですが、どの感情を基本感情とするかは研究者によって異なります。

イザード,C.E.興味・興奮、喜び、驚き、苦悩・不安、嫌悪、怒り、恐怖、軽蔑、恥、罪悪感
エクマン,P.幸福、怒り、悲しみ、嫌悪、驚き、恐怖

感情の認知説

感情の認知説とは、心理学者のアーノルド,M.が提唱した感情に関する説です。

アーノルドは、刺激と反応の間に認知的評価が介在するとして、感情の認知説を提唱しました。

認知的評価とは、刺激に対する「良い-悪い」という評価や判断のことです。

良い刺激と評価すれば接近し、悪い刺激と評価すれば回避する行動がとられますが、そうした行動傾向を生起させる動機づけが意識されることが感情の経験になるというのが、感情の認知説です。

認知的評価と感情の独立説

アメリカ合衆国の社会心理学者ザイアンス,R.B.は、認知的評価と感情は独立したものであり、刺激が認知されなくても感情が生じると主張しました。

ザイアンスは、単純接触効果(ザイアンス効果)を提唱した人物であり、単純接触効果が感情と認知の独立性を示す証拠だとしています。

MEMO

単純接触効果:同じ対象と接する回数が増えるほど、その対象の印象や評価が高まる現象

ラザルス・ザイアンス論争

アメリカの心理学者ラザルス,R.S.は、状況の解釈とその認知的評価(1次的評価と2次的評価)が感情を生起させると考えました。

1次的評価状況が自分に脅威的か肯定的かなど、自分との関係性の評価
2次的評価状況に対処できるか、どう対処すうかについての評価

なお、ラザルスはストレスコーピング理論を提唱した人物であり、アサーショントレーニングの基礎を作ったラザルス,A.A.とは別の心理学者です。

ザイアンスの認知と感情の独立性を主張する考え方と、ラザルスの認知と評価に関する考え方の違いから、ラザルス・ザイアンス論争を巻き起こしました。

しかし、ラザルスのモデルにおける1次的評価には無意識的な処理が含まれており、無意識的な処理を認知とする(ラザルス)か認知としない(ザイアンス)かという解釈の違いによって対照的に見えるだけという指摘もあります。

まとめ

感情とは

怒り、不安、喜び、悲しみなど、物事や対象に対して人が抱く気持ち

ジェームズランゲ説

ジェームズとランゲが提唱した、「刺激→生理的変化→表出行動→感情の生起の順番で感情が経験される」という説

キャノンバード説

キャノンが提唱してバードが修正を加えた、「刺激→感情の生起→生理的変化→表出行動の順番で感情が経験される」という説

感情の2要因説

シャクターとシンガーが提唱した、「生理的変化と生理的反応の原因の認知によって感情が生起される」という説

表情フィードバック仮説

トムキンズが提唱した、「表情に関する情報が脳にフィードバックされ、表情と関連する感情を引き起こす」という仮説

基本的情動理論

「特定の刺激を知覚すると基本感情が起こって固有の表情や姿勢を表出させ、自律神経系の活動を引き起こす」という理論

感情の認知説

アーノルドが提唱した、「刺激と反応の間に認知的評価が介在することで行動が導かれ、行動の動機づけを意識することが感情の経験になる」という説

認知的評価と感情の独立説

ザイアンスが提唱した、「認知と感情は独立しており、刺激が認知されなくても感情が起こる」という説

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