心理学用語や心理学を活かせる仕事を解説

心の理論とは?獲得年齢とサリーとアン課題(誤信念課題)のテスト方法

心の理論とは

心の理論とは、ある人が、自分以外の他人の心を類推して理解する能力です。

簡単に言えば「他人の気持ちを理解する能力」、少し難しく言えば「ある人が自分や他人に心的状態を帰属すること」です。

英語では「theory of mind」と表記され、日本語では心の理論と訳されます。

theory of mindという心理学用語が初めて使われたのは、霊長類研究者のプレマック,D.とウッドルフ,G.が1978年に発表した論文「Does the chimpanzee have a theory of mind?」です。

その後、発達心理学において乳幼児を主な対象として研究が重ねられており、現在も獲得年齢や発達障害などに関する研究が行われています。

聞き慣れないかもしれませんが、対人関係を良好に保ったり社会生活を送ったりする上で欠かせない能力の一つで、誰でも日常生活の中で意識せず使っているものです。

心の理論の例

例えば、いつもは元気に挨拶してくれる友人が、ある日はこちらに気づいたのに挨拶もせず無言で立ち去った場合、私たちは「何か怒らせてしまったのかな。」、「急いでいるのだろうか。」などと友人の行動の原因を考えます。

このように、自分からは見えない友人の心の仮定して、その働きに友人の行動の原因を求めようとするのが心の理論です。

心の理論が発達していないとどうなるか

心の理論が発達していないと、簡単に言えば「自分以外の他人の立場に立って物事を考えること」がうまくできず、自分の言動や態度が他人にどのように受けとめられるか想像できません。

そのため、他人とうまく関わることができず、悪意なく他人が嫌がることをしたり、集団生活場面で適切な行動をとれなかったりして、対人関係や社会生活における立場を悪くしてしまいます。

近年、発達障害が注目されるようになってきましたが、自閉症スペクトラム障害の子どもに見られるコミュニケーション障害の背景に心の理論の発達が関わっているという指摘もあります。

心の理論のテスト(誤信念課題):サリーとアン課題とスマーティ課題

人や人以外の動物が心の理論を持っているか否かについては、誤信念課題(false belief task)によって確認することができます。

誤信念課題は、課題の内容によって位置移動課題と内容変化課題の2種類に分類されます。

生後3歳から6歳頃の子ども(就学前の幼児)に対して行われることが多く、他人の信念に関する質問に正しく答えることができれば「心の理論が獲得されている」と判断されます。

サリーとアン課題(位置移動課題)

位置移動課題の代表的なものがサリーとアン課題です。

サリーとアン課題とは、被験者に対して、①2人の登場人物と、②部屋の中にバスケットと箱が置かれた状況を提示して行われる心の理論のテストです。

心の理論を確認するテストの代表的なもので、国によって登場人物の名前をサリーとアン以外に、箱を家具などに変更するなどして世界各国で行われています。

サリーとアン課題のテスト手順

サリーとアン課題では、以下の状況が、紙芝居または実験者による寸劇によって被験者である子どもに提示されます。

  1. サリーとアンが同じ部屋にいる
  2. 部屋の中にはサリーのバスケットとアンの箱が置いてある
  3. サリーがビー玉をバスケットの中に入れる
  4. サリーが部屋を出ていく
  5. アンがビー玉を自分の箱の中に入れる
  6. サリーが部屋に戻って来て、ビー玉を取りだろうとする

状況が提示された後、実験者が被験者に対して、信念に関する質問、現実に関する質問、記憶に関する質問をします。

  • 信念に関する質問:「部屋に戻ってきたサリーは、ビー玉を取り出すためにどこを探すと思いますか。」
  • 現実に関する質問:「ビー玉はどこにありますか。」
  • 記憶に関する質問:「最初、ビー玉はどこにありましたか。」

3歳の子どもの多くは、信念に関する質問に対して「箱の中(サリーがいないときにアンがビー玉を入れた場所であり、現実にビー玉がある場所)」と誤答します。

「ビー玉がアンの箱の中にある」という「自分が見た現実」と、「ビー玉はバスケットの中に入れておいた」という「サリーの信念(サリーにとっての現実)」が異なることを理解できていないのです。

一方で、4歳から5歳の子どもの多くは、「バスケットの中(サリーにとっての現実)」と正答します。

「自分が見た現実」と「サリーの信念」が異なることを理解できるようになっているのです。

なお、3歳の子どもの多くは、現実に関する質問と記憶に関する質問には正しく答えられます。

マキシ課題(位置移動課題)

サリーとアン課題と同じ位置移動課題としては、マキシ課題も有名です。

マキシ課題のテスト手順

マキシ課題では、まず、以下の状況が被験者に提示されます。

  1. 母親がチョコレートを買ってくる
  2. マキシがチョコレートを青い戸棚に入れる
  3. マキシが遊びに出かける
  4. 母親がチョコレートを戸棚(青い戸棚とは別の戸棚)にしまい、出ていく
  5. マキシが帰宅し、チョコレートを食べようと思う

その後、実験者が被験者に対して、「マキシは、チョコレートを取り出すためにどこを探すと思いますか。」と質問します。

サリーとアン課題と同じく、3歳の子どもの多くは「戸棚(母親がチョコレートをしまった場所、現実にチョコレートがある場所))」と誤答しますが、4歳から5歳の子どもは「青い戸棚」と正答します。

スマーティ課題(内容変化課題)

誤信念課題のうち内容変化課題の代表的なものがスマーティ課題です。

スマーティ(スマーティーズ)とは、日本のマーブルチョコレートに似た、ヨーロッパでは一般的なチョコレート菓子です。

スマーティ課題のテスト手順

スマーティ課題では、まず、被験者である子どもに対して、スマーティの箱に鉛筆が入っていることを見せます。

  1. 実験者が被験者に対してスマーティの箱を見せ、「何が入っていると思いますか。」と質問する。
  2. 子どもが「スマーティ」と答える
  3. 箱を開け、鉛筆が入っているところを見せる
  4. 鉛筆を箱の中に入れる

その後、子どもに「お友達が(検査で使用した)スマーティの箱を見たら、何が入っていると思うでしょうか。」と尋ねます。

3歳の子どもの多くは、いずれの質問にも「鉛筆」と答えます。

心の理論が獲得されておらず、「自分が知った現実」と「お友達(他人)の信念(お友達にとっての現実)」が異なることが理解できないため誤答してしまうのです。

また、「最初にスマーティの箱を見たときは、箱の中に何が入っていると思いましたか。」と質問すると、やはり「鉛筆」と誤答します。

心の理論の獲得年齢

心の理論は、生まれながらに備わっているのではなく、生まれた後の成長の過程で獲得していく能力であると考えられています。

心の理論の獲得年齢は、生後4歳頃というのが一般的です。

サリーとアン課題やスマーティ課題に正答できるようになるのが4歳後半から5歳頃であることから、4歳が心の理論の始まりだと考えられているのです。

しかし、「「ふり」を理解できるようになる1歳半頃から」とする意見や、「希望や信念などに基づいて人の行動を推測できるようになる3歳頃から」という意見もあります。

近年は、共同注意や指差しが心の理論の獲得の始まりだという指摘があり、また、オオニシ,K.H.らは1歳3ヶ月でも心の理論を獲得しているという研究結果を発表しています。

心の理論と自閉症

イギリスの発達心理学者バロン=コーエン,S.は、サリーとアン課題を自閉症児、ダウン症児、健常な4歳児に対して行っています。

その結果、多くのダウン症児及び健常な4歳児が誤信念課題に正答したのに対し、自閉症児は正答率が有意に低いことが明らかになりました。

論文では、自閉症児の方がダウン症児よりも知能年齢が高いにも関わらず、課題の正答率は約20%と低かったとされています。

その後、アスペルガー症候群の子どもや高機能自閉症児にも誤信念課題が行われ、彼らは課題を通過できることが明らかにされました。

自閉症については、「自閉症スペクトラム障害とは?2ヶ月~1歳の赤ちゃんに見られる特徴と兆候は?」で詳しく解説しています。

まとめ

心の理論とは

自分以外の他人の心を類推して理解する能力

心の理論のテスト(誤信念課題)
  • サリーとアン課題(位置移動課題)
  • マキシ課題(位置移動課題)
  • スマーティ課題(内容変化課題)
心の理論の獲得年齢

誤信念課題に正答できるようになるのは4歳頃から

ただし、乳児期から獲得しているなどの主張もあり、議論が続いている

心の理論と自閉症

自閉症児、ダウン症児、健常な4歳児に誤信念課題を行ったところ、自閉症児の正答率が有意に低くなった

【参考】

  • Do 15-month-old infants understand false beliefs?|Kristine H Onishi, Renée Baillargeon |Science: 2005, 308(5719)
  • Recognition of faux pas by normally developing children and children with Asperger syndrome or high-functioning autism. |S Baron-Cohen, M O’Riordan, V Stone, R Jones, K Plaisted |J Autism Dev Disord: 1999, 29(5)
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